高校2年の時、ほぼ皆勤だったにも拘わらず欠席をしてまで行動したことがあります。
それは浜松まで、ピアノを選びに行ったことです。
今思えば、この欠席は価値ある一日となりました。
新横浜駅でピアノ調律師である高校の部活動の先輩と待ち合わせて、新幹線こだま号に乗り浜松駅で降りました。
浜松駅で先輩の師匠であるピアノ調律師の斎藤義孝氏と合流し、カワイピアノのピアノ工場(確か竜洋工場)まて用意された車に乗り込み送迎していただきました。
敷地内の試奏する場所には、3台のDIAPASON 210Eが並べられていました。
「本当に210Eでよろしいのですね」と念を押されて「はい」と答えました。
最初は向かって左にあるピアノから、試奏しました。
ゆっくりと音階を弾き、次にバッハのインベンション8番を弾いて確認しました。
ピアノ選定の時にショパンの革命を弾かれる方がいるのですが、緊張して上手く弾けず、立ち会った方も何とも気まずい思いをすることがあるそうです。
清水の舞台から飛び降りる位の、人生の一大決心みたいなことでしょうか。
革命を弾きたくなる気持ちは理解できますが、落ち着いて確実に弾ける曲で臨むのが良いと、先輩の調律師からアドバイスを事前にしていただきました。
1番目のピアノは、可も無く不可も無くという感じでした。
2番目に試奏したピアノは大変良く響き、低音も重厚な響きが印象的でした。
3番目は全体のバランスは良いものの、2番目を弾いた後だと少し物足りない響きでした。
3台弾き終わった後で、斎藤義孝氏に「どれが気に入りましたか」と聞かれたので、「2番目が良いのでは?」と答えました。
斎藤義孝氏は頷きながらも、「3番目のピアノの方が良いですよ」とお答えになりました。
第一印象と違ったので理由と尋ねると、2番目だと一般家庭では鳴りすぎて落ち着かないことと、3番目の方が全体のバランスが良く音色も良いですよと答えられました。
何のために斎藤義孝氏に選定をお願いしたかを考えれば当然ですが、3番目のピアノに決めました。
若かった自分は、心の整理が出来ていなかったことを覚えています。
その後、斎藤義孝氏はメーカーの方と談笑されていました。
その間、私と先輩はカワイのピアノ工場見学をさせていただきました。
ピアノの製作工程順に、一つ一つ職人さんが作業している脇を見学しました。
当時、木材を乾燥させる所や塗装する所等、一般では立ち入れない個所も見学することができ、貴重な体験をしました。
見学後に昼食となり、うな重をご馳走になりました。
最後に浜松駅まで送っていただき、解散となりました。
後日、横浜の自宅に納品され、晴れてグランドピアノユーザーになりました。
弾いてみると、素晴らしく良く響きとても綺麗な自分好みの音色でした。
また低音は重厚な響きで、高音は品のある輝いた響きでした。
もしあの時2番目を選んでいたら、家中がうるさくてとんでもないことになっていたかも知れません。
斎藤義孝氏は流石だなと、思い知らされました。

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