(整音の技術的なことは、優秀な調律師にご相談ください)
ピアノの音を整えるのに、ハンマーのピッカリングという整音作業が大切です。
にもかかわらず、この整音作業が十分になされていないピアノが多いのではないでしょうか。
- ピアノ販売店で展示されているピアノ
- 学校のピアノ
- 多くの家庭のピアノ
- SNSで公開されている映像に登場するピアノ
高音から低音まで音色が揃っているのならそのピアノの魅力かもしれませんが、一般的なピアノは1本弦の銅巻線から始まり、2本弦の銅巻線、場合によっては3本弦の銅巻線、角度を変えて交差する3本弦の中音域、その先の次高音域と高音域等、幾つかの場面で設計上の明らかな音色が違ってしまう箇所が存在します。
理想の音色を目指して設計されるのですが、弦・響板・駒・側板、その他振動する部品の組み合わせで大きく変わります。
これらの条件が整った上で、ハンマーによる打弦点がどこかによっても音色は変わり、そもそもそれも設計の一部です。
どなたか忘れましたが、YouTubeで弾き方によってハンマーのシャンクのしなり具合により打弦点を変えて音色に変化をつけると豪語していましたが、人間の打弦力で打弦点が変わるほどのシャンクのしなりを体感するのは難しいと思います。
一般的に弦の長さの8分の1が打弦点となります。
但し、高音域ではもっと狭めると良いとの研究もあります。
一般的に8分の1が良いのは理由があります。
それは、打弦した場所の倍音が弱まるからです。
一見8分の1だから8倍音は弱める必要が無いように思えますが、隣の7倍音と9倍音を弱めたいために、8倍音を犠牲にして8分の1を打弦点にしているのです。
8倍音を犠牲にしても、2の累乗根の倍音は良く鳴っているから目立たないのです。
やっとハンマーの話に入ります。
ハンマーの硬さ(柔らかさ)によって、最終的な音色が決められます。
我が家のピアノDIAPASONはRENNER社製BECHSTEINモデルですが、国産では今出川ハンマーの評価が高いようです。
良いハンマーは芯が硬くて表面が少しだけ柔らかいようです。
PPの場面では、表面の柔らかい部分が多く影響して優しい音を奏でます。
FFの場面では、芯の硬い部分が多く影響して鋭い音を奏でます。
マリンバ(木琴類)やティンパニを演奏した人ならわかると思いますが、マレットの材質や仕上げは、音色に大きな影響を与えるのです。
弾きこまれたピアノのハンマーは、弦の当たっている所だけ硬い筋が付いてしまいます。
弾力がなくなってしまったハンマーだと、キンキンした硬い音しかならなくなってしまいます。
このようなことから、ハンマーのメンテナンスが必要になります。
それがピッカリングです。
フェルトに針を刺すのです。
でも気を付けてください。
経験上、弦と接する部分には刺さない方が良いです。
また、一般に出ている情報では中心に向かって刺していますが、外に向かって刺した方が良い結果を出しています。
繊維を解きすぎないように注意が必要ですが、最近では硬化剤があるので多少のことなら修正可能です。
ハンマーの形が崩れている場合は鑢(ヤスリ)によるファイリングも有効ですが弦跡を消してしまうほど削ってはいけません。
ソフトペダルを踏んだ時に普段は弦に当たっていない部分と接することで、柔らかい音が出るからです。
メーカーによってソフトペダルで右に鍵盤がずれる幅が異なり、3本弦のうち2本しか打弦しないように調整している場合もありますが、私の好みは3本弦の弦と弦の間にずれるだけ(約1㎜)の調整する方が好きです。
その理由は、1本弦や2本弦の時もあるし、3本弦は厳密には平行に張られていないからハンマーについた弦跡の溝が微妙にずれるのを嫌うからです。
しかしピアノ曲の楽譜にある用語で「una corda」「tre corde」の意味からすれば、3本弦から1弦はずすのが元々の考えとなるので、そちらの方が正しいのかも知れません。
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